脳血管障害

脳梗塞

脳梗塞の原因は大きく3つの分けられます。

  1. アテローム血栓性脳梗塞
  2. 脳塞栓
  3. ラクナ梗塞


脳梗塞を病態別に正確に分類しなければ正しい治療ができません。 以下にその病態別の特徴を述べ、治療方法を概説します。

1. アテローム血栓性脳梗塞

アテローム血栓性脳梗塞とは大きな血管の壁にコレステロールの蓄積が起こり、 血管内に突出し、それ以降への脳血流が減少したり、壁の一部やそれに張り付いた 血栓が飛んで脳梗塞が起きることを言います。この病態の原因として、高血圧、 糖尿病、高コレステロール血症などが上げられます。アテローム血栓性脳梗塞は 徐々に症状が出現し、進行することあります。意識は比較的よい状態で保たれることが多いですが、 何回も再発をきたしたりして徐々に生活レベルが低下する可能性があります。 この病態に対する急性期の治療は、血圧は高いままで維持し、脱水を改善させるのが第一です。 また点滴で血小板血栓の進行を防いだりします。また口から薬が飲めるときは 抗血小板剤(アスピリン、チクロピジン、シロスタゾール)を血栓ができないように投与します。 1ヶ月を過ぎた時点から血圧を少しずつ下げ目標は140/85mmHgに2~3ヶ月をめどに下げていきます。 この時期には点滴は必要なく(食事ができている場合は点滴による水分補給は不必要です)、 抗血小板剤とリスクファクターの管理(糖尿病、高コレステロール血症)が必要です。

予防的血行再建術

頸動脈内膜剥離術

頚部の内頸動脈起始部が細くなり(狭窄)、そこから血栓が飛んだり、 血流が少なくなって脳梗塞が起こります。この病態を内頚動脈狭窄症といいます。この狭窄部分を外科的に 切除することで、脳梗塞の再発を予防する手術を頚動脈内膜剥離術といいます。

この手術は全身麻酔で行い、手術時間は3~4時間です。徳島大学脳神経外科では 1976年以降430例の頚動脈内膜剥離術を施行しています。手術成績は合併症率2.1%ですが 最近の100症例では死亡率は0%です。この成績は世界標準を満たしており、 日本の脳神経外科施設での手術数でも上位を占めています。米国では この手術は手術成績を明示し、良好な数字を示した施設のみで手術をすることを推奨しています。

浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術
内頚動脈や中大脳動脈が頭蓋内で狭窄したり閉塞したりして、脳血流が著しく減少し、 そのために脳梗塞が起こり、症状を呈することがあます。 この病態に対して、頭皮を栄養する浅側頭動脈を脳表面の中大脳動脈に吻合して脳血流を増加させ、 脳梗塞の再発を防ごうとするのが浅側頭動脈中大脳動脈吻合術です。 この手術の効果があるかどうかを脳血流と測定し、安静時に正常の80%以下、血管反応性が10%未満の症例に限定して、 平成10年より日本の外科手術で始めて前向き研究として検討されて、その結果が平成16年4月にだされました。 当科からも15症例を登録させていただきました(全国4位)。 この結果として浅側頭動脈中大脳動脈吻合術は抗血小板剤投与のみの内科群に比較して有意に脳梗塞を予防しました。 この手術も全身麻酔下に行い、手術時間は4~5時間です。当科では現在まで300例以上のこの手術が施行され、 合併症発生率は1.4%であり、安全性は確保されています。

2. 脳塞栓

この脳梗塞の原因は心臓(特に左房)や上行大動脈に存在する血の塊(赤血球血栓)が脳内に飛んでしまうことです。 最近では巨人の長島元監督がなったことで有名になりました。 この病態の危険因子として、心房細動(不整脈、一過性を含む)、 心臓の僧帽弁、大動脈弁の異常、急性心筋梗塞、心筋症、卵円孔開存による奇異性側線などがあります。 この病態は突然完成する片麻痺や、言語障害で発症し、意識障害を伴うことが多く見られます。 症状は重篤なことが多く、大きな血管が閉塞することもあります。 治療は血圧を維持しながら、脱水を改善し、脳が腫れている場合は、腫れを抑える抗浮腫剤を点滴で投与します。この病態は再発をきたす可能性が2週間以内に10~20%と高い割合で見られ、抗凝固薬による適切な予防が必要です。

3. ラクナ梗塞

ラクナ梗塞とは脳内の細い血管が閉塞し、脳の深い部分に直径が1.5cm未満の小さな梗塞ができることを言います。 片麻痺や言語障害、感覚障害をきたしますが、通常意識障害はきたしません。危険因子は高血圧です。 治療としては急性期は血圧を維持し、脱水を補正するのはすべての脳梗塞の治療と同じです。 急性期・慢性期を通じて抗血小板剤を投与しますが、脳出血の既往やT2スターという特殊な方法でMRIを施行し、 出血した部位を認める症例には抗血小板は脳出血をきたす可能性があり危険です。 脳卒中専門医とよく相談して服用してください。また厳重な高血圧の管理が必要です。 高血圧を管理することで痴呆の予防にもなることが証明されています。 自分で勝手に薬をやめることはしないで、専門医とよく相談してください。

以上の様に脳梗塞の原因は様々なものがあり、病態別に適切な治療を行なっています。

脳出血

脳内出血とは脳の実質内に出血を起こした状態です。高血圧が元で微小な血管が破綻することが主な原因です。脳血管の異常が原因のこともあります。脳出血の死亡率は40〜50%と脳梗塞に比べて高く、介護を要する障害を残す割合も約50%に達すると報告されています。20-30%程度の患者さんは介護なしで生活出来るように回復します。

治療方法

治療方法には外科的治療法保存的治療法があります。各治療法のメリットとデメリットのバランスを計り、治療法を選択します。具体的には出血した部位や大きさ、患者さんの年齢や全身状態などを考慮して決定します。手術を行う目的は救命で、神経症状を改善させることはありません。

脳動脈瘤

-くも膜下出血を中心に-

くも膜は脳を覆っている膜の一つで、そのくも膜の下に起こる出血がくも膜下出血です。 くも膜の下には脳の血管が存在するため、その血管が破綻するとくも膜下出血になります。 くも膜下出血の約80%は脳動脈瘤が破裂して起こるものです。脳動脈瘤は人口の約5%に存在するといわれていますが、 その破裂率については現在日本で調査が行われており、全動脈瘤の破裂率は1%ぐらいではないかと考えられています。 けっして高い破裂率ではありませんが、一度破裂してしまえば半分の人が死にいたるやっかいな病気です。 その治療方法にはコイル塞栓術とクリップ手術の2通りの方法があり、 我々は動脈瘤の大きさ、形、脳のどの血管に存在するかなどさまざまな条件を考慮し患者さんにとって もっともよいと思われる方法を選択しています。クリップ手術は手術用顕微鏡を用いて脳動脈瘤を剥離、 露出して動脈瘤の首の部分(ネック)にクリップをかける手術です 。 クリップにはスギタのクリップとヤシャギルのクリップがよく使われています。

くも膜下出血を起こすと、破裂脳動脈瘤の治療が成功してもそのあとに様々な病気を併発する恐れがあります。 その一つが脳血管攣縮です。脳血管攣縮とは脳血管が糸のように細くなり血液が流れにくくなる病態です 。 場合によっては血管が詰まってしまうこともあります。脳血管攣縮は破裂後5日目から14日目ぐらいまで持続します。 脳血管攣縮に対するさまざまな薬も開発されていますが特効薬はなく約20%の人が症候性の脳血管攣縮に陥っているといわれています。 我々は脳血管攣縮の症状をできるだけ早期に発見し、治療を行なうようにこころがけています。 脳血管攣縮の症状が出現した患者さんには血管内治療の技術を用い、細くなった血管をバルーンで直接拡張したり、 マイクロカテーテルを病巣の近くまでもっていき直接細くなった血管に血管拡張剤を流すような治療を行なっています。

脳血管外科手術

脳血管外科手術は顕微鏡を用いて脳血管や頸動脈に対して手術加療を行います。治療適応となる代表疾患は、破裂脳動脈瘤、未破裂脳動脈瘤、頸動脈狭窄、脳出血などです。

1. 破裂脳動脈瘤に対する開頭ネッククリッピング術

脳動脈瘤とは脳血管の一部が風船のように膨らんだものを言います。これが破裂し、くも膜下出血(ときに脳内出血)を引き起こします。くも膜下出血の典型的な症状は、突然バットで殴られたような激しい頭痛が生じます。脳動脈瘤が再破裂すると、死亡率は約70-90%にまで増加します。したがって手術により脳動脈瘤の再破裂を防ぐことが重要であり、開頭ネッククリッピング術を行います(※脳動脈瘤の場所や形態によりコイル塞栓術を選択する場合もあります)。全身麻酔下に開頭し、顕微鏡下に破裂脳動脈瘤にクリップをかけて再破裂を防ぐ手術です。

頭部CTでくも膜下出血の診断
顕微鏡下に脳動脈瘤を確認
脳動脈瘤にクリップをかけて
再破裂を防ぎました。

2. 未破裂脳動脈瘤に対する開頭ネッククリッピング術

脳動脈瘤が破裂する前の状態を未破裂脳動脈瘤と言います。発生の原因ははっきりと分かっていませんが、全人口の3-6%に認められると言われています。最近は脳ドックでの頭部画像検査も増えており、動脈瘤が破裂する前に偶然発見されることが増えています。未破裂脳動脈瘤は基本的に無症状ですが、破裂した場合は致命的(30-50%)または重篤な症状につながるくも膜下出血を引き起こします。当科では未破裂脳動脈瘤に対しても破裂予防のため開頭ネッククリッピング術を行っております。全身麻酔下に開頭し、顕微鏡下に正常脳組織を丁寧に剥離し、未破裂脳動脈瘤にクリップをかけて破裂を予防する手術です。

顕微鏡下に未破裂脳動脈瘤を確認
未破裂脳動脈瘤にクリップをかけて
今後の破裂予防を行いました。

3. 頚動脈狭窄症に対する頸動脈内膜剥離術

頚動脈は、脳につながる血管のクビの部分を指します。特に内頚動脈の始まりの部分が動脈硬化により細くなることで、脳への血流が悪なり、コレステロールや血栓が脳の血管に飛ぶことで脳梗塞を引き起こします。当科ではこの頸動脈狭窄による脳梗塞を防ぐため、頸動脈の狭窄部分を広げる頸動脈内膜剥離術を行っています。全身麻酔下に、頚部に皮膚切開を行い、頚動脈を露出します。その後、頸動脈を切開して、動脈硬化の部分を剥離して取り除いた後に、血管を再縫合します。

頸動脈を露出
顕微鏡下に内膜を剥離
摘出した内膜

4. 脳出血に対する開頭血腫除去術、内視鏡血腫除去術

脳出血とは脳実質内に出血を起こした状態です。高血圧性脳内出血が原因の多くを占めています(※脳動脈瘤、脳動静脈奇形、血液疾患、出血性素因等の様々な原因が隠れている場合もあります)。出血量が少ない軽症の場合は保存的加療を行います。出血量が多い場合は、脳幹が圧迫される脳ヘルニアという状態となって命にかかわることもありますので開頭血腫除去術、もしくは内視鏡血腫除去術を行います。開頭血腫除去は全身麻酔下に開頭を行い、顕微鏡下に直接血腫を吸引除去して脳への圧迫を解除します。脳の腫れが強ければ一時的に頭蓋骨を外す減圧開頭を追加することもあります。内視鏡血腫除去術の場合は、小さな穴を頭蓋骨にあけて内視鏡のカメラで観察しながら血腫を吸引除去します。

被殻出血。前頭葉、側頭葉、脳室内にも出血が穿破し、
正中構造が対側に偏倚している