脳腫瘍

脳腫瘍グループ

徳島大学病院脳神経外科では年間60~80例の脳腫瘍手術を行っています。 神経膠腫(グリオーマ)、下垂体腺腫、前庭神経鞘腫、髄膜腫、転移性脳腫瘍などが主な治療対象ですが、 近年、手術件数・入院件数とも増加しています。脳腫瘍手術支援システムとして、 最新型手術顕微鏡、ナビゲーションシステム、超音波メスなど最先端の手術器具を導入し、 最先端のレベルの高い手術を行っています。 また、当院の放射線科や小児科と協力して小児悪性脳腫瘍に対して放射線・化学治療を集学的に行い良好な治療成績を得ています。

代表的な脳腫瘍​

徳島大学脳神経外科が行っている臨床試験

徳島大学病院脳神経外科は日本臨床腫瘍グループ(JCOG)の脳腫瘍グループの参加施設の一つです。JCOG では日本全国の多くの医療機関が参加して脳腫瘍に対する標準治療や新規治療を開発するための臨床試験を行っています。 患者それぞれの状態、治療状況に応じ最適な治療を提供できることを目指しています。

現在進行中の臨床試験

  • JCOG1910試験
    「高齢者初発膠芽腫に対するテモゾロミド併用寡分割放射線治療に関するランダム化比較第III相試験」
  • JCOG2209試験
    「テント上初発膠芽腫に対する造影病変全切除術と造影病変全切除+FLAIR高信号病変可及的切除術とのランダム化第III相試験 」

神経膠腫(グリオーマ)

神経膠腫(グリオーマ)は脳を構成する細胞のうち神経膠細胞から発生する腫瘍です。脳に発生する原発性脳腫瘍のなかで約30%を占めます。神経膠腫には多くの種類がありそれぞれ悪性度も異なります。摘出した腫瘍を病理学的に、また最近では遺伝子学的検査も併用して悪性度を判定します。

神経膠腫(グリオーマ)の治療は手術・化学療法・放射線治療を組み合わせて行います。悪性度や腫瘍の種類によって治療法が異なるため、術前にはCTやMRI、シンチグラフィ、PETといった画像検査が必要となります。画像検査だけで判断が難しい場合には、実際に腫瘍を一部採取する生検術を行って診断を確定します。手術による摘出術が必要と判断された場合には開頭腫瘍摘出術を行います。

近年、神経膠腫(グリオーマ)に対する手術は大きく変わり、過去は、手術の摘出度と随伴する神経症状の予防は、執刀医の経験と勘に依存するところもありました。 当院では、グリオーマ手術での摘出率向上と随伴する合併症回避のため、術中蛍光組織診断(薬剤により腫瘍細胞を可視化する技術)やナビゲーションシステム、最新の超音波吸引装置を導入しています。また、言語や運動機能温存のため、覚醒下手術(手術中に患者を覚醒させて、 神経症状の出現の有無を確認する手術法)や電気生理マッピング(脳表を刺激して運動野や言語野などの詳細な局在を確認する技術)を導入しています。 これらにより安全で確実性の高い手術を行っています。

悪性グリオーマに対しては手術・化学療法・放射線治療を併用した治療が必要となりますが、当院では前述の治療に加え、状態に応じ光線力学療法や腫瘍治療電場療法を行っています。

腫瘍治療電場療法についてはこちら

また、日本臨床腫瘍グループ(JCOG)に所属し全国規模で行われる臨床試験に参加し、神経膠腫(グリオーマ)に対する新規治療も行っています。

髄膜腫

髄膜腫は原発性脳腫瘍の中で約26%を占める体表的な脳腫瘍です。脳実質を覆っている「髄膜」から発生してくる腫瘍で脳内の髄膜がある部位ではどこにでも発生します。症状は発生部位により様々で視力・視野障害や麻痺、感覚障害、頭痛、痙攣などがあります。大きな腫瘍の場合は頭痛や嘔吐、意識障害といった頭蓋内圧亢進症状を呈することもあります。 最近では、CTやMRIが普及したこともあり無症状の髄膜腫が発見されることも多くなっています。

治療法は手術による摘出術が第一選択となります。しかし、無症状で小さな髄膜腫は定期的にMRIを行い経過観察します。症状を呈している場合や経過で大きくなった場合、脳浮腫を伴っている場合などは治療を行います。 髄膜腫のほとんどは良性腫瘍であり基本的には全摘出で治癒が期待できます。

当院では、症状を呈している髄膜腫には積極的に手術を行っています。高齢者でも腫瘍摘出により症状の改善が見込めれば積極的に治療を行います。髄膜種では頭蓋外の血管から栄養されていることが多くあります。このような時には、血管内治療チームによる術前の腫瘍栄養血管塞栓術を行い、開頭術の際に出血量を減らすことができ安全に手術を行うことが可能です。

左 手術前(髄膜腫)高齢者症例:右 手術後

下垂体腺腫

下垂体腺腫は脳腫瘍のなかで3番目に多い腫瘍です。下垂体はトルコ鞍という頭蓋骨のくぼみに存在し、1cm弱の大きさです。下垂体では様々なホルモンが産生され体内環境を調整しています。下垂体腺腫はホルモンが過剰産生される機能性下垂体腺腫、ホルモンを産生しない非機能性下垂体腺腫にわけられます。非機能性下垂体腺腫では腫瘍による圧迫で視力・視野障害を生じ発見されることが多く、その他頭痛や複視、下垂体機能低下をきたすことがあります。機能性下垂体腺腫では過剰分泌されるホルモンにより症状は異なり、プロラクチン(PRL)産生性では乳汁分泌や不妊など、成長ホルモン(GH)産生性では高身長や顔貌の変化、糖尿病、高血圧など、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生性では中心性肥満や多毛、骨粗鬆症などがあります。

下垂体腺腫にたいしては開頭手術ではなく、鼻腔から内視鏡を用いて行う経鼻的内視鏡下腫瘍摘出術を行っています。最近では4Kカメラを用いた高解像度の内視鏡システムやナビゲーションシステムを併用することで、より安全に最大限の腫瘍摘出を行っています。ホルモン産生腺腫の場合には、薬物療法が奏功する場合もあり内分泌内科と協力して治療にあたっています。

また、4cm以上の巨大下垂体腺腫や、再発例など経鼻的内視鏡手術単独では 摘出が難しい場合には、耳鼻咽喉科とも連携を取りながら、開頭術と経鼻手術を同時に行い腫瘍を摘出する体制を整えています。

神経鞘腫

神経鞘腫は神経を取り巻いて支えている鞘(さや)から発生する腫瘍で、脳神経や脊髄神経から発生します。一般には良性腫瘍で、手術により完全摘出ができた場合には治癒が期待できます。 発生する脳神経により症状は異なりますが、聴神経から発生する場合が最も多く(70-80%)、ついで顔面の知覚を行っている三叉(さんさ)神経、顔面の運動を行う顔面神経などから発生します。 聴神経鞘腫の場合、聴力の低下で発症します。突発性難聴のような突然に発症する場合もありますがほとんどは数年の経過で進行します。特徴は電話声が聞こえるが何を言っているのか判らない(=言語識別力の低下)です。腫瘍の増大につれて近接した三叉神経障害から顔面の感覚障害、顔面神経障害から顔面神経麻痺(顔面の表情筋の一側のたるみ)がしばしば伴います。更に大きくなり小脳や脳幹を圧迫することで、ふらふらして歩行ができないといった歩行障害を生じ、まれに頭蓋内圧亢進症状をきたして生命を脅かすこともあります。

神経鞘腫の治療は外科的摘出が第1選択になります。聴神経鞘腫の場合、腫瘍の周囲は顔面神経や脳幹・小脳に接しているため開頭腫瘍摘出術のなかでも手術難易度の高いものの一つです。手術前に中等度以上の聴力障害(自分で難聴を自覚している場合)がある場合には、手術を行っても聴力の回復はまず困難です。一番の問題は顔面神経の温存です。この顔面神経は腫瘍により強く圧迫され薄く広がっているためこれを温存することに最大限の努力を払います。3cm以上の大きな腫瘍では程度の差はありますが顔面神経の障害が出現する可能性もあります。 これら合併症軽減のため、手術中は顔面神経モニターをおこなうことで顔面神経の走行を確認しながら神経温存を行っています。

左 手術前(聴神経腫瘍): 右 手術後

中枢神経原発悪性リンパ腫

中枢神経原発悪性リンパ腫は、脳に発生する悪性リンパ腫で脳腫瘍の約4%をしめます。中高年に発生し、特に高齢での発生が増加傾向にあります。脳内のあらゆる場所に発生し、発生部位に応じ様々な症状が出現します。比較的短期間で進行することがあり腫瘍の増大により頭痛や意識障害など頭蓋内圧亢進症状を呈することがあります。画像検査で中枢神経原発悪性リンパ腫が疑われた場合には多くの場合生検術を行い診断確定します。

中枢神経原発悪性リンパ腫にたいしては、メトトレキサート(MTX)を用いた大量MTX療法と放射線治療を併用した治療が標準的とされています。しかし特に高齢者においては治療による神経毒性から白質脳症を生じ認知機能低下をきたすことが問題となっています。この合併症を回避するため化学療法を強化し放射線治療を減量あるいは遅らせる方法が検討されています。

徳島大学脳神経外科では、MTXにリツキシマブを併用した化学療法を行い、さらにはMTX維持療法を追加することで、従来の放射線治療を行った治療法に比べ良好な成績が得られたことを報告しています。

また、若年例や難治例の場合には血液内科と連携して、多剤併用化学療法を導入することで再発率の軽減に取り組んでいます。

胚細胞腫瘍

胚細胞腫瘍は、未熟生殖細胞から発生する腫瘍で小児に多い腫瘍です。下垂体や視床下部、松果体部に発生し、成長の遅れや眼球運動障害、頭痛、嘔吐などで発生します。

胚細胞腫瘍は腫瘍マーカーや組織型でジャーミノーマ、成熟奇形腫、未熟奇形種、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、胎児性癌などに分類されます。治療は手術、化学療法、放射線治療を組み合わせて行います。前述の組織型により治療法が異なり手術のみで成熟奇形腫では手術のみで治癒可能な場合もあります。多くの場合は化学療法と放射線治療を併用して治療を行います。手術については腫瘍の大きさや症状、化学療法後の経過などから判断して行います。

治療方針の決定には腫瘍マーカーの測定と組織診断が重要であり、まず比較的侵襲の低い内視鏡手術により組織生検を行います。この時水頭症を伴っている場合には第3脳室開窓術を行うことで水頭症の改善が得られます。

化学療法は多剤を用いて行い長期間の治療となることが多く、当院では小児科専門チームで治療を行います。放射線治療は当院で行う放射線治療のほか年齢に応じ陽子線治療が行える施設と連携して治療にあたります。