パーキンソン病・ジストニア・振戦

1.脳の働きと脳深部刺激療法

「不随意運動症」という言葉をお聞きになったことがありますか?不随意運動症とは麻痺などがないにも拘らず、意図した運動がうまくできなくなる(震える、足がすくむ、筋肉が緊張する)状態で、パーキンソン病や本態性振戦、ジストニア等の疾患が含まれます。脳では運動や行動をコントロールするために体の働きに関するたくさんの情報が電気信号によって細胞から細胞へと伝えられています。不随意運動症はこれらのうちいくつかの情報が正しく伝わっていないため起こりますが、特に大脳基底核と呼ばれる脳深部の神経核の異常と関連が深いことが分かっています。

難治性のパーキンソン病や本態性振戦(ふるえ)、ジストニアなどの不随意運動症に対する治療法として脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)という外科治療が近年注目を浴びています。DBS療法はこの大脳基底核の特定の部位に電極を挿入して、心臓のペースメーカーとよく似た刺激バッテリーを胸部に埋め込み、持続的に脳を刺激することで神経活動を調整する治療法です(図1)。DBS療法は体外から刺激条件を調節することで症状の進行や刺激の副作用に対応して刺激を変えることが可能です(調節性;図2)。また脳を破壊しないため刺激を中止すればほぼ元の状態に戻すことができます(可逆性)。皮膚感染やバッテリー交換を要するなどのデメリットもあり、手術適応の決定には内科と外科の専門家の連携と慎重な判断が必要です。

図1:脳深部刺激療法の概要
図2:患者用プログラマー(Medtronicホームページより)

2.適応について

どのような不随意運動症でもまず初めに薬物治療を行いますが、お薬の効果が思うように得られなかったり、副作用が強い場合には外科手術を行うことも治療の選択肢の一つとして挙げられます。手術が最もよく行われるのはパーキンソン病です。パーキンソン病に対するDBS療法が始まって20年の歴史があり、これまでに世界中で10万人以上の患者さんがDBS療法を受けられ高い評価を受けています。日本では2000年より保険適応となりこれまでに8000人以上の方に治療が行われています。

DBSが考慮されるのは、
①十分な薬物治療を行ってもなお症状の日内変動(ウェアリング・オフやオン・オフ現象)が大きい場合
②薬物誘発性の不随意運動(ジスキネジア)のためにうまく体がコントロールできない場合
③薬物でコントロール困難な強い振戦(ふるえ)がある場合
④薬の副作用(精神症状、消化器症状)が強く薬物治療が困難な場合
などがあります。

一般に若年者で、薬物(L-ドーパ)に対する反応が良好な患者さんほど高い手術効果が期待できます。重度の認知症やその他の精神疾患を合併した例では期待できないため適応外となります。

3.治療効果について

パーキンソン病

一般的にパーキンソン病の場合、運動機能が手術前に比べて60~70%程度改善します。パーキンソン病に対するDBS療法の刺激部位として現在もっとも選択されているのは大脳基底核の一つである視床下核という場所ですが、ここを刺激した場合には術後の抗パーキンソン病薬の減量が可能となります。従って術前に薬物の副作用があった場合には薬物減量によってそれを軽減することも可能となります。しかしその一方で術後の体重増加や情動異常(抑うつ症、躁症状)などの出現も報告されています。DBS療法の効果は5年間以上は持続することが明らかとなっていますが無動や姿勢保持障害は次第に悪化していくことが分かっています。

ジストニア

ジストニアの病因・病態は多様で未だそのメカニズムは解明されておりませんが大脳基底核の淡蒼球という場所を刺激することで症状改善が得られることが証明されています。ジストニアに対する治療に関して、徳島大学は国内でも有数の症例数を有し、良好な結果を得ております。

振戦

内服加療で止まらない難治性の震えに対しては、主に視床手術を行っております。ターゲットは視床腹側中間核で、局所麻酔下に凝固術、もしくは電極挿入による刺激術を行っております。術中、局所麻酔下において試験刺激を行い、震えが止まるのを確認します。振戦を抑える効果は非常に良好です。

強調しておかなければならない事はDBS療法は症状を軽減させるものであり、不随意運動症そのものを治してしまう治療ではないと言うことです。従って、手術後もお薬の治療を継続することが必要で、薬物治療とDBS療法の二人三脚での治療となります。薬物治療を主に行っておられる神経内科の先生と我々脳神経外科医との共同で治療を行うことが大切と考えます。徳島大学は神経内科と脳神経外科が協力して治療を行える体制が整っており不随意運動症の治療に良い環境と考えます。不随意運動症と診断されて数年が経過しお薬の効果が持続されなくなったため生活に支障が来されているような方は、脳神経外科もしくは神経内科の専門医に相談される事をお勧めします。