てんかん

てんかんとは

 てんかんは大脳の神経細胞が過剰に興奮するために発作を起こす疾患です。意識がなくなり全身のけいれんをきたす場合や数秒から数分だけ意識を失うものなど、発作のタイプもさまざまあります。てんかんは、およそ100人に一人の割合でいると言われていますので、国内に約100万人の患者さんがいると推計されています。あらゆる年齢にわたって発症する脳の病気です。発症年齢は3歳以下の乳幼児、および60歳以上の高齢者に多いですが、どの年齢でもある一定の割合で発症することが知られています。

 てんかんの診断には 本人や家族、目撃者からの十分な問診、脳波検査、CTやMRIなどの画像検査などを行います。発作をスマートフォンなどで撮影していただくと、診断に結びつきやすくなります。てんかん発作は焦点起始発作と全般起始発作に分けられますが、目撃情報が少ない場合などには分類が不明の時もあります。

 適切に診断し、適切な抗てんかん薬で治療すれば、多くの方(約60~70%)で発作は抑制することが可能です。
費用の軽減には、自立支援制度、精神障害者保健福祉手帳などがあります。当院ではてんかん診療コーディネーターが詳しくご説明いたします。

徳島大学病院てんかんセンターでは各診療部署と協力し、てんかんの包括的診療に取り組んでいます。

また、遠方で徳島大学病院まで受診が困難な場合はオンライン診療も行っています。徳島大学病院てんかんセンターのホームページをご参照ください。

側頭葉てんかん

 側頭葉てんかんの患者さんの多くは、発作が始まる前に、胃から込み上げるような感じなどの前兆を持っています。その後に一点をじーっと凝視し、動作停止、周りの人の問いかけに反応できなくなります。そのときに口をぺちゃくちゃさせたり、手がかってに動いたりすることがあります。発作の後は、しばらくぼーっとしますが、本人は発作があったことを、多くの方は覚えていません。周囲の方は発作中に簡単な質問をしてください。反応がなければ、意識がないと判断されます。側頭葉てんかんの原因としては海馬硬化症、腫瘍性病変、血管障害などがあります。

側頭葉外てんかん

 側頭葉以外にも前頭葉、頭頂葉、後頭葉にてんかん焦点があり、さまざまな発作を生じることがあります。MRI, PET, 長時間ビデオ脳波モニタリングなどの検査によりてんかん焦点を絞り込むことによって手術が可能になることもあります。

てんかんの治療

てんかんは、主に抗てんかん薬により治療します。てんかん発作のタイプを正確に診断することは薬の種類を選択するためにはとても大切です。ただし、抗てんかん薬は発作を起こす可能性のある間は、続けて飲む必要がありますので、長期に内服しても副作用が少ない薬剤を選択します。その他にてんかん以外の病気の存在や服用している薬との飲み合わせ、将来の妊娠出産への影響なども考慮して、抗てんかん薬を選択します。

抗てんかん薬による発作消失の見込み

通常の薬物療法での抗てんかん薬の抑制率は、1番目の抗てんかん薬で47%、2番目で13%、3番目もしくは2剤以上の併用では4%のみです。つまり、多くの方(約60~70%)で発作は抑制することが可能ですが、残りの約30%の患者さんは薬物治療のみでは発作が残存します。抗てんかん薬以外の治療としては、ケトン食療法などの食事療法や外科的治療があります。

長時間ビデオ脳波モニタリング

 発作が薬物治療で抑制されない場合、てんかんかどうかわからない場合などには入院の上、長時間ビデオ脳波モニタリングを行っています。発作中の様子をビデオで録画し、発作が起こっているときの脳波を記録するため、多くは服用中の抗てんかん薬を減量します。てんかんの原因である焦点が脳のどの部位から生じるかなど、病態をより詳細に把握することができます。てんかんだと思われていた患者さんの発作中脳波で異常が認められず、診断が覆る場合もあります。
発作時脳波

てんかんの外科治療について

てんかんの外科治療は薬物療法では発作が治まらずに困っている患者さんに対して、発作の消失や軽減を目標に行われている治療です。

てんかんの原因によっては80% 以上の患者さんで発作の消失が期待できる場合もあります。もちろん全ての手術でそれだけの効果が期待できるわけではありませんが、発作の消失はてんかん外科の大きな目標です。

また患者さんの生活の質を改善することも目標にしています。例えば、手術によって転倒発作がなくなれば、困っていた患者さんやご家族の生活にとっては大きなプラスになることも期待できます。

どのような人が受けられるの?

てんかんの外科治療の対象となるのは、薬剤抵抗性の患者さんに限られます。「薬剤抵抗性」とは、適切な抗てんかん薬を十分な量で単剤あるいは併用で、2 剤試みても、一定期間(一般には1 年以上)にわたって発作が抑制されない状態を指します。
その上で、外科治療が可能なてんかんとして、

  1. 内側側頭葉てんかん
  2.  器質病変が検出された部分(焦点)てんかん
  3.  器質病変を認めない部分(焦点)てんかん
  4.  片側大脳半球の広範な病変による(焦点)てんかん
  5.  転倒発作(失立発作)をもつ薬剤抵抗性てんかん

の5つがあります。
器質病変とは脳腫瘍や皮質形成異常など、画像検査によって指摘することができる病変をいいます。

手術を受けるまでの流れは?

まずは外来を中心に脳波検査や画像検査を行い、発作の原因となっている部分(焦点)を見つけ出します。
外来で行う検査だけでは焦点が分からないことも多いため、入院して発作と脳波を同時に記録するなどして、さらに焦点を絞り込みます。
手術による効果が期待できると判断すれば、いよいよ手術を計画することになります。

どんな手術があるの?

てんかんの外科手術には大きく分けて、発作の消失を目指す「根治手術」と発作の頻度を減らしたり、発作の程度を軽くしたりする「緩和手術」があります。以下に、主な手術を示します。

ⓐ 焦点切除術(根治手術)

最も多く行われているのは海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんに対する手術です。完全に発作が消失する割合が80%以上と言われており、薬物療法より効果が優れていることが証明されており、手術の効果が最も期待できる手術です。

側頭葉てんかんの原因の1つである海馬硬化症

ⓑ 脳梁離断術(緩和手術)

左右の大脳半球を結ぶ脳梁を切断し、神経の連絡を絶つことで発作を抑制させる手術です。特にレノックス・ガストー症候群などでみられる転倒発作に対する効果が高く、発作が完全に消失するのは10%程度ですが、転倒発作については80%以上で消失するとされています。

ⓒ 迷走神経刺激術(緩和手術)

左頚部にある迷走神経と呼ばれる脳神経に電極を巻き付け、前胸部に埋め込んだ刺激装置を用いて、一定間隔で電気刺激を与える治療法です。開頭手術の対象にならない患者さんや開頭手術の後にも発作が残っている患者さんが対象になります。一般に半数の患者さんで発作の頻度が半分程度になると言われています。

リヴァノヴァ株式会社より提供

てんかん発作が止まらずに困っている患者さんに伝えたいこと

 てんかん治療のゴールはQOL の改善です。QOL の改善の一つとして、てんかん発作の消失や緩和は重要であり、てんかん外科治療が大きな助けとなってくれる可能性があります。

 どのような手術が適しているのか、実際に見込める改善の程度はどのくらいなのかは、それぞれの患者さんによって異なります。そのため、てんかん外科医はそれぞれの患者さんと向き合い、患者さんとご家族の希望を伺いながら慎重に手術治療を検討しています。

 薬物療法では発作が治まらずに困っている患者さんは、かかりつけの先生と良く相談し、てんかん外科の門を叩いてみてはどうでしょうか。